綺麗な店を作ってくれてありがとう!

とす日記

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ある日の事ですが、いい歳をしながらも私がコンビニの店内で週刊少年ジャンプを立ち読みしていた時の事です。

時間的には昼頃でしょうか、比較的作業服を着た男性がお昼ご飯を求めて店内に多く来られていたかのように思います。カップラーメンを買ってお湯を入れる人、私と同じように暗殺教室を読んで泣く人、お弁当を温めてもらっている人。どこのコンビニにもあるごく当たり前の風景がひろがっていました。

 

ひとりの男性の言葉

そんなどこにでもある店内に少し違う空気が漂ったのはそんな瞬間でした。

その人が入ってこられたのは私も見ていなかったのですが、誰かが店内に入ってきたのはコロ先生の涙を誘うシーンの横目にも分かりました。年老いた男性で腰が曲がっているのでしょうか、とにかくゆっくりゆっくりと店内に入って来られたのでよけいに視界には入りました。その人が入口から入って2~3歩前に進み止まって、店員さんに頭を下げながらこう言います。

「私でも入っていい綺麗な店を作ってくれてありがとう」

私は暗殺教室を見ながら泣きそうになっていたのですが、その言葉に驚いてその男性の方を見ました。

年の頃なら80といったところでしょうか、先ほどまで農作業をされていたような姿で長靴には少し泥がついておりました。腰は日々の農作業で曲がり、冬だというのに真っ黒に日焼けした肌。そしてとても優しい笑顔。店員さんは驚いてこう言います。

『とんでもございません、さぁ、どうぞお入りくださいませ』

するとその男性は会釈をしながら前に進みつつ

「本当に綺麗なお店やなぁ、気持ちええなぁ」

と笑顔で言いながら温かい缶コーヒーを選び、

「これをください」

と少し照れくさそうな感じで言われると、いつも私の会計をしてくれる店員さんがいつものように丁寧に商品を渡して釣銭を返します。

いつも私はこのコンビニに来ると入った瞬間にこの店員さんに人差し指を立て「1」と意思表示をしておきます。するとお弁当やコーヒーを選んでレジに着くと私の吸うタバコが1つ用意されているという素晴らしいコンビニ。この店員さんの釣銭の渡し方が好みで心地よいのです。

その男性はお釣りを受け取って

「ホントにありがとねぇ、綺麗なお店に入れて嬉しいで。ありがとう」

と曲がった腰で何度も会釈しながら出てゆかれました。

綺麗なお店…もちろん見た目も綺麗なお店ですが、それ以上に通路も美しく商品陳列も素晴らしいコンビニです。だから私もよほどでない限りこのコンビニを利用してます。それはやはり私も気持ち良さを感じているからでしょう。

 

入っていい綺麗な店と入っちゃダメな綺麗な店?

そこで私は気になったのです。

その男性は確かに「私が入っても良い綺麗なお店」と言われました。確かにその男性の長靴には泥がついていました、そのまま入ると店内は汚れるでしょう。だから気を使われるのであれば話は分かります。しかし「入ってはいけない綺麗な店」もあるのでしょう。敷居が高い店?泥を落とすと怒られる店?…もしかしたらその男性はいろんなお店に入りたいけれど入れなくて我慢されているのではないでしょうか?コーヒーが飲みたくても「自分はこんな店に入っちゃいけない」と我慢されているのではないでしょうか。

そう考えるととても胸が熱くなる瞬間でした。

同じ接客業をしている身として、自分の店がこの男性に「入ってはいけない綺麗な店」だと思われているのではないか?と思うと考えるモノがあります。(その前に綺麗なお店と思ってもらえてるかなw)

店作りの方法で【敷居をあげる事で質が低い人が入ってこなくなる】というのは多くの人が知る手法ですが、私の目にはこの男性は決して質は低くなく、むしろどんな人よりも質の高い方に見えました。とても優しい上品な方に見えました。

「泥だらけにされたくない」

多くの店員はそう考えるでしょう。糊の効いたシャツを着た上質なお客さんを増やしたいから泥のついた人を見ると顔が曇る店員は少なくありません。でもそんなふうに客を見ている店員がいる店が本当に上質な客が満足できる店と言えるのか?

そう考えさせられたお昼のワンシーンでした。

 

私もいつものように…

そんな事を考えながら私もレジに向かいました。いつものように「1」と合図していたのでレジには今日も1つのタバコが置いてあります。

先ほどの男性はすごく自分の泥汚れを気にされていましたが、レジ前に泥はひとつも落ちてませんでした。

いつもと変わらない心地よいコンビニでのお買い物。いつもと違うといえば、先ほどの男性の言葉の意味を考えさせられたという事くらいです。

車に乗り、前を見るとその男性が先ほどよりも前かがみになって歩道をゆっくりゆっくりと歩いておられました。駐車場から出ようと前に進み、そこですべて理解できました。首にかけた手拭で歩道に落ちた泥を土手側に払っておられたのです。店内にほとんど泥が落ちていなかったのは、歩道わきの土手道に長靴の土を落としてから入店されたからだったんですね。

…私はこんなにも優しい人が入りにくいお店は好きじゃないかもしれません。もちろん高級ブランド店や高級料理店にも泥だらけの人を受け入れろとは言いません。それはケースバイケース、業種によりけり。

けれど、その男性が言われた「私が入っていい」という言葉の裏に「入ったら嫌な顔されるし申し訳ない(´・ω・`)」という意味合いもあるのだとしたら、自分の関わる店がそう感じられていたら申し訳ないなと思った出来事でした。

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